(2)感情労働の概念
感情労働という概念は1970年代にアメリカで生まれ、客室乗務員の調査研究をまとめた社会学者、A・R・ホックシールドの『管理される心 感情が商品になるとき』によって知られるようになりました。
相手(=顧客)の精神を特別な状態に導くために、自分の感情を誘発、または抑圧することを職務にする、精神と感情の協調が必要な労働のことをいいます。
日本では主として、看護や介護の分野で研究が積み重ねられているようです。
感情労働は本来、「外の顧客を相手にした仕事」介護の仕事やクレーム処理、コールセンター業務などをする人に焦点を当て、「外の顧客を相手にした仕事」をする人を対象としていたようですが、今や感情労働は、顧客と対面する職業という枠を超え、広がりを見せています。
顧客という概念を、職場内の上司や部下などに置き換えても、感情労働の定義は成立するのではないかと、私は思えるのです。
職務を遂行していく過程において、苦痛を感じたり、怒りをかきたてられたり、虚(むな)しさにとらわれたり、不安感が頭から離れなかったりする状況を作り出すのは、何も顧客ばかりではありません。
同じ職場で働いている人達にも同じような苛立ちを感じることは良くあるからです。
そのような意味においては、職場の中でのストレスの背景には「感情労働」が隠れていると言えるでしょう。現在は、感情労働の定義は浸透して来ているのですが、対策なども含めてまだまだ研究されなければならないことが沢山あるようです。
「感情労働」は、これから様々な研究が冴え、いろいろなことが発見されていく過程ではありますが、そのような中でも、顧客(介護される人)に対して感じ良く接し、相手のプラスの感情を引き出すように配慮をしながら、介護される人々の背景にいる関係者や上司に対しても自分の感情を調整しながらの「介護の現場」とは、「感情労働の現場」そのものであると表現できるのではないでしょうか。
そのような感情労働の現場で働いている人々に、自分は研修という場を借りて、何を提供することができるのだろうと考えたのです。そのときに、頭に浮かんだキーワードが「話しをする」ということでした。